縦貫「最後」の春　1997年5月　その７

6 縦貫「最後」の春　1997年5月　7/8 8

後平～西千曳　Canon EOS RT　Tokina AT-X80-200mm f2.8 　RDP2　1997.5

1997年5月5日、南部縦貫鉄道運転最終日。それまではモヤがかかってほとんど山容が見えなかった八甲田連山が、くっきりとその姿を現した。縦貫の最後の勇姿を見守るかのように、人を寄せ付けない魔の山が穏やかに微笑んでいた。八甲田のこんな顔を見るのは初めてだった。まるで奇跡を見る思いがした。

この場所には、当然のことながら多くのアマチュアカメラマンが集結した。皆、レールバスがやってくるその瞬間を固唾をのんで待っていた。が、そのとき･･･････この畑の地主がやってきて、大変な剣幕で我々アマチュアカメラマンを罵り始めた。お前たちは牧草の種を播いたところを踏み荒らして平然としている。何がレールバスだ！　百姓の魂をなんだと思っているんだ、と。最初私は、あからさまに畑の中で構えている一群の連中のことを怒っているのかと思った。あるいはその前日、この畑に四駆の轍がついていたことから、一部の非常識な連中の破廉恥な行為に感情を害しているのかと思った。

しかし、私は自分の足下を見て、愕然となった。左右の人間が邪魔にならないようにポジションを動かしているうちに、自分自身も知らず知らずのうちに畑の一角を踏み荒らしていたのだ。激昂する地主の言葉が、私の胸を貫いた。自分自身にこれほどまでに嫌悪を感じたことはない･･･････二度と思い出したくない後味の悪い撮影になってしまった。

いわくつきの写真なので、この写真を出すかどうか私は最後まで迷った。だが、あえて出すことにした。八甲田の山の神様が、縦貫最後の日にやっと微笑みかけてくれたという記録写真として。

坪川～道ノ上　Canon EOS RT　Tokina AT-X80-200mm f2.8 　RDP2　1997.5

坪川築堤全体が見渡せる築山の上では、レールバス最後の勇姿をカメラに収めようするアマチュアカメラマンたちのいちぶの空きもない放列が並んでいた。そんな彼らの横を、超満員のレールバスが通過して行く。

坪川～坪　Canon EOS RT　Tokina AT-X80-200mm f2.8 　RDP2　1997.5

言葉こそ交わせなかったが、とても気になる人物がいた。レールバスに向かって日の丸を振っているこのおじさんは、別に写真を撮るのでもなく、レールバスがやってくると線路端で懸命に旗を振るだけ。レールバスが行ってしまうと、愛車の赤いスバルで追いかけて、追いついてはまた旗を振る。

暮れゆく坪川の土手でカメラを構えていると、去りゆくレールバスに日の丸を振るおじさんの姿があった。今にも泣き出しそうな空の下、渾身の力を込めて振られる日の丸を見ているうちに、いつしか胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じた･･･････

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